本の偽金化

では、なぜ「売れないからたくさん作る」という出版業界特有の論理が成立するのでしょうか?
その背景には、本の偽金化というシステムが潜んでいるのです。
本は出版業界(出版社・取次・書店)という村における地域通貨だとも言われています。


出版業界では本が貨幣と同じように流通します。

  • 1,000円の本はいつまでたっても1,000円
  • 1,000円の本はどこでも1,000円
  • 売っても返品しても入金が発生する


第11回 それでも出版社が倒産しないワケ::本と本屋さんの夕日

出版業界のサプライチェーンは、私がかつて関わった、家電品、パソコンのそれに比較するとかなり遅れている感じがします。
家電各社では、流通在庫のコントロールをかなり精緻にやっています。しかしそれでも、大変な流通在庫ができてしまいます。

その一方で、出版業界はそもそも流通在庫のコントロールをしているとは思えません
上で引用した通り、本を偽金として扱う過程で、流通在庫コントロールへの動機付けが働かなかったからなのでしょう。しかし、右肩下がりの時代が到来して、そのツケが一気に回ってきてしまいました。

80年代までは返品率は3割前後で推移していましたが、90年代以降に4割に高止まりしていますね。
1万冊の本を刷っても6,000冊しか読者に届かない。生産数の4割が消費者に届かないような商品を作る一般メーカーは存在しません。
他の産業ならとっくに倒産しているし、産業としても成立しないでしょう。


第10回 文系でもよくわかる、お金と数字から見る戦後出版文化史::本と本屋さんの夕日

最近倒産したゴマブックスの倒産理由にもそれがあらわれていて、大量の流通在庫が返品された途端に資金繰りが行き詰って倒産してしまっています。彼らの返本率は5割だったそうです。

製品寿命が短くなるなかで、多くの家電メーカーは需要と供給を如何にバランスさせるかに苦心してきました。
かなりの周回遅れですが、出版社も同様の課題を突きつけられる時が来ました。

紙は生産過程で多くのエネルギーを消費し、CO2も大量に放出します。環境のことを考えても、出版業界はもっと効率的になるべきですね。